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座右の書

書/福村 准(77期)
私の好きな言葉

伊 藤 陽 文

(陽武館伊藤道場館長)

和を以て貴しと為す

 日本には素晴らしい言葉が数多く残されていますが、私の一番好きな言葉です。出典は聖徳太子の『憲法十七条』第一条です。

 この言葉との出会いは、昭和三十五年拓殖大学入学時、剣道部部長で居られた小山朝英先生が、新入生歓迎会の席上で話された中の一言でした。

――「和」は日本人の心の源であり、この心をないがしろにすると個々の対立(いじめ・無視)や暴力行為(体罰・しごき)に発展しかねません。聖徳太子が言われている(和を以て貴しと為す)という言葉の意味を理解し、これを実践して和気あいあい、協力し合って、充実した学生生活を送ってもらいたい。

 小山先生はこのようにお話をされました。

 この言葉に非常に感銘を受け、その時、私は「和」を大切に人生を歩まなければならない、という思いに至りました。

 「和」の意義は、社会生活においてそれぞれの性質を認め合い、生かし合いながら、全体の秩序を保つことが大切であるということです。

 剣道においても「和」。中でも「調和」は重要な要素の一つです。

 「着装」稽古衣・袴・剣道具

 「構え」上半身と下半身、左右の手の握り

 「攻め」気と剣と体、攻と防、懸と侍

 「打突」気合いと竹刀操作・踏み込み

 「残心」身構えと気構え

 これらが調和することが有効打突につながる筋道であると思います。

 四年間の寮生活を振り返りますと、それは厳しく、辛い面も多々ありましたが、寮生全員が「和」の心を持つことを実践したおかげで、楽しく充実した生活を送ることができ、この間の生活が私の将来の夢(剣道専門家として、青少年の指導を通じ社会に役立つ人材を育成すること)の第一歩となりました。

 卒業後は夢を実現すべく、神奈川県警察に奉職、特練員、コーチ、監督などを経て平成十四年定年退職。その間、昭和五十三年念願の道場を創設。「和」の大切さを指導に生かし、剣道の理念である人間形成を目指し、青少年の健全育成に邁進しております。

いとう・はるふみ/昭和16年東京都生まれ。鎌倉学園高校から拓殖大学に進み、卒業後、神奈川県警察に奉職。全国警察大会、全日本東西対抗、明治村大会などに出場。昭和53年陽武館伊藤道場を創設。現在、神奈川県警察剣道名誉師範、全日本剣道連盟理事、神奈川県剣道連盟常任相談役、神奈川県剣道道場連盟会長、陽武館伊藤道場館長。剣道範士八段。

〈剣道時代(2015年10月号)連載の「私の好きな言葉」の記事より引用〉

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